いじめの訴えやアンケートへの記載があったとき、最初に重要となるのは、児童生徒が安心して話せる環境を整え、言葉の背景にある不安、恐怖、孤立感、助けを求める気持ちを丁寧に受け止めることです。表面的な言葉だけで判断せず、児童生徒の置かれている状況を深く理解することが、いじめの重大化を防ぐ第一歩となります。
いじめの重大化は「小さな訴え」の見落としから始まる
いじめ問題では、最初から大きな被害として表面化するケースばかりではありません。むしろ、最初は「嫌なことを言われた」「からかわれた」「無視された」「学校に行きたくない」「部活動がつらい」といった、短い言葉や断片的な訴えとして現れることがあります。
この段階で、周囲の大人が「よくあること」「子ども同士の問題」「もう少し様子を見よう」と受け止めてしまうと、児童生徒は自分の苦しさを理解してもらえなかったと感じ、次第に訴えることを諦めてしまうことがあります。
いじめの重大化を防ぐためには、児童生徒の言葉を単なる出来事の報告として扱うのではなく、「なぜ今その言葉を発したのか」「どの程度つらさを抱えているのか」「誰に何を求めているのか」を丁寧に読み取る必要があります。
児童生徒の言葉を聴き取るときの基本姿勢
児童生徒からいじめや人間関係のトラブルについて相談があったときは、まず本人が安心して話せる場所を確保する必要があります。教室内、廊下、職員室の一角など、他の児童生徒に会話が聞こえる場所では、本人が本音を話しにくいことがあります。
特に、いじめの被害を受けている児童生徒は、「告げ口をしたと思われたくない」「さらに嫌がらせを受けるかもしれない」「先生に話しても変わらないかもしれない」と感じている場合があります。そのため、聴き取りの場面では、本人の不安を軽視せず、慎重に対応することが必要です。
まずは評価せずに聴く
児童生徒が話し始めた直後に、「それはいじめではない」「相手にも理由があるのではないか」「あなたにも悪いところがあるのではないか」といった反応をしてしまうと、本人はそれ以上話せなくなってしまいます。
聴き取りの初期段階では、評価や判断を急ぐのではなく、本人の言葉を遮らずに受け止めることが大切です。そのうえで、いつ、どこで、誰から、どのような言動があり、本人がどのように感じたのかを整理していきます。
誘導ではなく、本人の言葉を引き出す
聴き取りでは、「はい」「いいえ」で答えられる質問だけでは、本人の気持ちや状況を十分に把握できないことがあります。たとえば、「嫌だったのですか」と聞くだけでなく、「そのとき、どのように感じましたか」「その後、学校生活で困ったことはありますか」といった形で、本人の言葉で説明できる質問をすることが重要です。
ただし、無理に話をさせる必要はありません。話すこと自体に強い不安を抱えている児童生徒もいます。その場合は、時間を置いて再度確認する、書面で気持ちを書いてもらう、保護者やスクールカウンセラーなど本人が安心できる大人を交えるなど、複数の方法を検討すべきです。
いじめアンケートを形式的に扱ってはいけない理由

学校では、いじめの早期発見のためにアンケートが実施されることがあります。しかし、アンケートは実施するだけで十分ではありません。重要なのは、記載された内容をどのように読み取り、どのように対応につなげるかです。
児童生徒がアンケートにいじめや不安を書いた場合、それは本人にとって大きな勇気を伴う行動であることがあります。にもかかわらず、記載内容を十分に確認せず、日頃の様子だけで「深刻ではない」と判断してしまうと、重大なサインを見落とす危険があります。
いじめアンケートは、単なる調査票ではなく、児童生徒からのSOSである可能性があります。たとえ短い記載であっても、その背景には長期間の苦痛、孤立、恐怖、不信感があるかもしれません。
いじめアンケートで確認すべき主な項目
いじめアンケートは、児童生徒が安心して回答できる内容であることが重要です。また、自由記述欄を設けることで、選択式だけでは把握できない状況を知ることができます。以下は、多くの学校で参考となる基本的な質問項目です。
① 現在、嫌な思いをしたり、いじめを受けたりしていますか。
- 受けている
- 以前受けていた
- 受けていない
② どのようなことをされていますか。(複数回答可)
- 悪口・陰口・からかい
- 仲間外れ・無視
- 暴力・物をぶつけられる
- 物を隠される・壊される
- お金を要求される
- SNS・インターネットでの嫌がらせ
- その他(自由記述)
③ いつ頃から続いていますか。
- 今日・昨日から
- 1週間程度
- 1か月以上
- 数か月以上
- よく分からない
④ 誰からされていますか。
分かる範囲で名前や学年、人数などを記入してください。
⑤ 誰かに相談しましたか。
- 家族
- 先生
- 友達
- スクールカウンセラー
- まだ相談していない
⑥ 学校にしてほしいことがありますか。
- 先生に話を聞いてほしい
- 相手に注意してほしい
- 席替え・クラス替えを検討してほしい
- 保護者にも相談したい
- まだ誰にも知られたくない
- その他(自由記述)
⑦ その他、困っていることや伝えたいことがあれば自由に書いてください。
自由記述欄は、選択式では表現できない思いや事情を書ける重要な項目です。短い文章であっても、その内容を軽視せず、必要に応じて個別の面談や事実確認につなげることが求められます。
アンケートは実施後の対応が最も重要
いじめアンケートは、「実施した」という事実だけでは十分ではありません。回答内容を迅速に確認し、必要に応じて本人への聴き取り、保護者への連絡、関係児童生徒への事実確認などを行い、継続的な見守りにつなげることが重要です。
こども家庭庁・文部科学省の報告書から読み取れる重大化のプロセス
こども家庭庁・文部科学省が公表した「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」によると、いじめが重大化する事案には、いくつかの共通した経過が見られます。
児童生徒の訴えが十分に受け止められない、本人の気持ちや希望が確認されない、加害児童生徒への指導や関係調整が不十分なまま時間が経過する、といった流れにより、被害児童生徒の苦痛が蓄積して重大事態へ至ることがあります。
「よくあること」「気にしすぎ」と受け止められ、初期対応が遅れる。
本人が何に困り、どのような対応を望んでいるのか確認されない。
指導や関係調整が不十分なまま時間が経過し、苦痛が蓄積する。
「深刻に受け止めすぎない」ことの危険性
同報告書では、児童生徒がいじめを訴えた際に、大人側が「そこまで重大ではない」「本人が気にしすぎているだけではないか」と受け止めてしまった結果、適切な初期対応が行われず、事態が深刻化した事例が紹介されています。
悪口やからかい、仲間外れ、無視、陰口などは、一見すると軽いトラブルのように見える場合があります。しかし、本人にとっては毎日の学校生活そのものが苦痛となり、登校への不安、不眠、体調不良、不登校などにつながることがあります。
いじめの深刻さは、外から見える行為の大きさだけでは判断できません。児童生徒が置かれている状況や心理状態を丁寧に把握することが重要です。
「本人の気持ち」を確認しないまま対応する問題
報告書では、事実確認だけで終わらせるのではなく、児童生徒本人がどのような支援を望んでいるのかを丁寧に聴き取ることの重要性も指摘されています。
- 謝罪を求めているのか
- 相手との接触を避けたいのか
- 教室や部活動で安心して過ごせる環境を整えてほしいのか
- 学校に見守りや再発防止を求めているのか
本人の意向を十分に確認しないまま、学校側の判断だけで「話し合い」「仲直り」「様子を見る」といった対応を進めてしまうと、かえって本人の精神的負担が大きくなることがあります。
「子ども同士の問題」として処理する危険
こども家庭庁・文部科学省の報告書では、児童生徒からの訴えを「子ども同士のトラブル」「お互い様」「じゃれ合い」として処理してしまった結果、必要な支援につながらず、重大事態へ発展した事例も分析されています。
児童生徒同士の人間関係は複雑であり、一方的な見方だけで判断できない場合もあります。しかし、被害を訴える児童生徒がいる以上、その訴えを軽視することは適切ではありません。
学校は、いじめに該当するかどうかという形式的な判断だけでなく、児童生徒が現実にどのような苦痛を抱え、学校生活にどのような影響が生じているのかという視点から、丁寧に状況を把握することが求められます。
学校に求められる具体的な対応
児童生徒からいじめや人間関係のトラブルについて相談があった場合、学校には、速やかで丁寧な対応が求められます。重要なのは、相談を受けた教員だけで抱え込まず、学校全体で情報を共有し、組織的に対応することです。
他の児童生徒に聞かれない環境で、本人の言葉を遮らずに確認します。
日時、場所、相手、具体的言動、証拠資料を整理します。
一度の聴き取りで終わらせず、登校状況や心理状態を確認します。
相談を受けた直後の対応
- 児童生徒の安全を確保する
まず、本人がこれ以上の被害を受けないよう、教室、廊下、部活動、登下校時などで接触リスクを確認します。 - 本人の話を丁寧に聴く
本人の気持ち、希望する対応、話してよい範囲、保護者への共有の希望などを確認します。 - 学校内で情報共有する
担任だけで判断せず、管理職、生徒指導担当、養護教諭、スクールカウンセラー等と連携します。 - 加害側とされる児童生徒への確認を行う
被害を訴える児童生徒に不利益が生じないよう配慮しながら、事実確認を進めます。 - 保護者へ説明し、対応方針を共有する
学校が把握している事実、今後の対応、再発防止策を具体的に説明します。
聴き取りで確認すべき内容
- いつ頃から、どのような行為があったのか
- 誰から、どのような言葉や行動を受けたのか
- 周囲に見ていた児童生徒や教員がいたか
- LINE、SNS、写真、録音、メモなどの資料があるか
- 本人が学校生活で何に困っているか
- 本人が希望する対応は何か
- 相手方と接触することに不安があるか
- 登校、授業、部活動、休み時間、登下校に支障が出ているか
保護者ができること
保護者としては、子どもからいじめの話を聞いたとき、まず本人の話を否定せずに受け止めることが大切です。「気にしすぎではないか」「やり返せばいい」「先生に言えばいい」とすぐに結論を出すのではなく、子どもが何を怖がり、何に困っているのかを確認する必要があります。
記録を残す
いじめ対応では、感情的な訴えだけでなく、できる限り客観的な記録を残すことが重要です。日付、場所、相手、具体的な発言や行動、学校への相談内容、学校からの回答、子どもの体調や登校状況などを時系列で整理しておくと、学校への説明がしやすくなります。
- 子どもから聞いた内容を日付入りで記録する
- LINE、SNS、メール、写真、動画、録音などを保存する
- 学校へ相談した日時、相手、回答内容を記録する
- 欠席、遅刻、早退、保健室利用、体調不良の状況を整理する
- 診断書、相談記録、学校からの文書を保管する
学校への要望は具体的に伝える
学校に相談する際は、「何とかしてください」だけでは、対応内容が曖昧になりやすいことがあります。たとえば、本人への個別聴き取り、加害側とされる児童生徒への確認、教室内での見守り、部活動中の接触防止、保護者への報告、再発防止策の説明など、求める対応を具体的に伝えることが重要です。
行政書士が支援できること
いじめ問題では、保護者が学校に相談しても、対応が十分に進まない、説明が曖昧である、記録が整理できない、どのような書面を出せばよいかわからないということがあります。このような場合、行政書士は、事実関係を整理したうえで、学校や教育委員会に対する要望書、通知書、経緯書などの作成を支援することができます。
経緯書の作成
いじめの経過を時系列で整理し、いつ、どこで、誰から、どのような行為があり、学校へどのように相談し、どのような対応がされたのかを文書化します。経緯書を作成することで、保護者の主張が整理され、学校側にも状況を伝えやすくなります。
学校への要望書作成
学校に対して、児童生徒への丁寧な聴き取り、いじめの有無の調査、関係児童生徒への確認、再発防止策、保護者への説明、安心して登校できる環境の確保などを求める書面を作成します。
内容証明郵便による通知
事案によっては、学校、相手方保護者、関係者に対して、書面の到達と内容を記録に残すため、内容証明郵便を利用することがあります。ただし、内容証明郵便は相手を威圧するためのものではなく、こちらの意思、事実関係、求める対応を明確に伝えるための手段です。
刑事告訴状の作成支援が検討される場合
暴行、傷害、脅迫、恐喝、器物損壊、名誉毀損、侮辱など、いじめの内容が犯罪に該当し得る場合には、警察への相談や被害届、刑事告訴が問題となることがあります。特に、加害行為をした者が14歳以上で、刑事責任が問題となり得る事案では、事実関係や証拠資料を整理したうえで、告訴状の作成支援が検討される場合があります。
チェック項目
いじめの訴えやアンケート記載があったときは、次の点を確認することが重要です。
- 児童生徒が安心して話せる場所で、個別に話を聴いているか
- 相談内容を「子ども同士の問題」として安易に処理していないか
- 本人の気持ちや希望する対応を確認しているか
- いじめアンケートの記載内容について、具体的な聴き取りをしているか
- 担任だけで抱え込まず、学校全体で共有しているか
- 保護者に対して、事実関係と対応方針を説明しているか
- 対応後も、本人の安全確保と継続的な見守りを行っているか
- 学校とのやり取りや相談経過を記録に残しているか
よくある質問
子どもが「いじめ」とは言わない場合でも対応は必要ですか。
必要です。本人が「いじめ」という言葉を使わなくても、「学校に行きたくない」「部活がつらい」「特定の子が怖い」などの言葉は重要なサインです。表現の仕方だけで判断せず、背景を丁寧に確認する必要があります。
学校が「子ども同士のトラブル」と説明している場合はどうすればよいですか。
まずは、学校がどのような事実を確認し、どのような理由でそのように判断したのかを確認することが重要です。そのうえで、本人の苦痛、登校状況、具体的な被害内容、希望する対応を書面で整理し、再度対応を求めることが考えられます。
いじめアンケートに書いたのに対応されない場合はどうすればよいですか。
アンケートへの記載内容、記載日、その後の学校の対応、本人への聴き取りの有無を整理してください。対応が不十分な場合には、学校長宛の要望書や教育委員会への相談を検討することがあります。
保護者が学校へ出す書面には何を書けばよいですか。
事実経過、本人の現在の状況、学校に相談した経過、学校に求める対応を整理して記載します。感情的な表現を中心にするのではなく、日時、場所、相手、具体的言動、希望する対応を明確にすることが重要です。
行政書士に相談するタイミングはいつですか。
学校への相談内容を整理したいとき、経緯書を作成したいとき、要望書や通知書を出したいとき、内容証明郵便を検討しているときなどに相談できます。早い段階で記録を整理しておくことで、後の対応が進めやすくなります。
いじめの訴えを「見過ごされたまま」にしないために
いじめの経緯整理、学校への要望書、内容証明郵便、通知書、警告書、刑事告訴状の作成支援について、現在の状況をお聞かせください。児童生徒の言葉を丁寧に整理し、必要な対応を検討します。
お問い合わせ
※ご相談内容を確認のうえ、行政書士業務として対応可能な範囲を整理してご案内します。弁護士対応が必要な事案については、適切な相談先の検討が必要です。




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