その「大丈夫」は本当に大丈夫ですか?「いじめ」であった事例

その「大丈夫」は本当に大丈夫ですか?「いじめ」であった事例 いじめの事例
いじめの見逃しを防ぐために

子どもが「大丈夫」「いじめではない」と答えたとしても、それだけで被害がないと判断することはできません。本記事では、友人グループ内のからかいやいじりについて、本人が被害を認めなかったものの、学校がいじめとして対応した事例をもとに、適切な確認方法と対応のポイントを解説します。

「大丈夫」という言葉だけでは判断できない

子どもに対して「いじめられていないか」「嫌なことをされていないか」と尋ねたところ、「大丈夫」「別に平気」「遊びだから」と答えられることがあります。

しかし、この返答だけを理由として、「本人が大丈夫と言っているから、いじめではない」と結論づけることは適切ではありません。

子どもは、実際には苦痛を感じていても、友人関係を失うことへの不安、相手からの報復、周囲に弱いと思われることへの抵抗などから、被害を否定することがあります。

重要なポイント

「大丈夫」という返答は、被害が存在しないことを示す客観的な証拠ではありません。言葉だけでなく、表情、声の調子、学校生活の変化、友人関係、行為の内容などを総合的に確認する必要があります。

「いじめではない」と答えていた事例

文部科学省が示しているいじめ対策に関する事例の中には、被害を受けている生徒本人が「いじめではない」と主張していたものの、学校が客観的な状況を踏まえて、いじめとして対応した事例があります。

関係する生徒

被害を受けた生徒

公立中学校に通う中学2年生の女子生徒A

行為をした生徒

Aと同じ友人グループに所属する中学2年生の女子生徒B

関係性

日常的に一緒に行動する友人グループ内の関係

グループ内で起きていたこと

AはBと同じ友人グループの一員でしたが、グループの中では比較的立場が弱く、他の生徒から、からかわれたり、いじられたり、嫌がらせを受けたりすることがありました。

外から見れば、一人の生徒だけが繰り返し笑いの対象にされ、嫌な役割を押し付けられているように見える状況でした。

ところが、A本人は、自分が常に同じ役割を担わされているわけではないことや、ときには相手に言い返していることを理由として、「いじめではない」と主張していました。

この事例で見落としてはいけない点

被害を受けた生徒がグループに残り、一緒に行動していたことや、ときには言い返していたことは、いじめが存在しなかったことを意味しません。

学校が行った対応

学校は、本人がいじめ被害を明確に認めていなかったとしても、グループ内の立場や実際に行われていた言動を客観的に確認し、いじめに当たる可能性がある事案として対応しました。

  • 学校いじめ対策組織に相当する対応チームで情報を共有した
  • Aから、どのような言動を受けていたのか丁寧に聞き取った
  • Aの心情に配慮しながら、継続的な教育相談を行った
  • 学年集会を実施し、アンケート結果などをもとにいじめについて指導した
  • その後も経過観察を続けた
  • いじめにつながる言動が確認された場合には、その場で指導した

このように、本人の「いじめではない」という言葉だけで問題を終了させず、客観的な事実と人間関係を踏まえて組織的に対応した点が重要です。

なぜ子どもは「大丈夫」と答えるのか

なぜ子どもは「大丈夫」と答えるのか

いじめを受けている子どもが「大丈夫」と答える理由は一つではありません。むしろ、その言葉の背景に、不安や諦めが隠されていることがあります。

仲間外れが怖い

被害を訴えることでグループから完全に外され、一人になることを恐れている場合があります。

報復を恐れている

先生や保護者に話したことが相手に知られ、行為がさらに悪化することを心配しています。

弱いと思われたくない

からかいを嫌だと認めることを、恥ずかしい、格好悪いと感じていることがあります。

自分にも原因があると思う

「自分が空気を読めないから」「自分が悪いから」と責任を抱え込んでいる場合があります。

日常化している

嫌な行為が繰り返されるうちに、それが普通だと思い込み、被害として認識できなくなることがあります。

大人に期待していない

以前相談しても解決しなかった経験などから、話しても無駄だと諦めている可能性があります。

また、加害側の生徒と普段は仲良くしている場合や、一緒に笑っている場面がある場合でも、いじめが否定されるわけではありません。

人間関係は単純ではなく、仲の良い関係の中に、支配、圧力、からかい、排除が併存していることがあります。

法律上のいじめの定義

いじめ防止対策推進法第2条第1項では、いじめについて、おおむね次の要件を満たす行為と定義しています。

いじめの基本的な要件

  • 児童生徒に対して行われる行為であること
  • 学校などで一定の人的関係にある他の児童生徒が行うこと
  • 心理的又は物理的な影響を与える行為であること
  • 対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じていること

インターネットやSNSを通じた行為も含まれます。

法律上、行為が何回繰り返されたか、集団で行われたか、加害側に悪意があったかは、いじめの成立に必須の条件とはされていません。

一回だけの行為であっても、相手が心身の苦痛を感じている場合には、いじめとして認知する必要があります。

「冗談だった」は理由になりません

加害側が「ふざけただけ」「遊びだった」「本人も笑っていた」と説明しても、それだけでいじめが否定されるものではありません。行為を受けた側の状況を丁寧に確認する必要があります。

参考:

文部科学省「いじめ防止対策推進法」

「大丈夫」と答えていても注意すべき具体例

「大丈夫」と答えていても注意すべき具体例

次のような状況では、本人が「大丈夫」と話していても、いじめの可能性を前提として確認する必要があります。

いつも笑いの対象になる

特定の子どもだけが、容姿、話し方、成績、家庭環境などを繰り返しからかわれている。

嫌な役割を押し付けられる

荷物持ち、買い出し、後片付け、失敗役などを特定の子どもだけが担当させられている。

断ると空気が悪くなる

子どもが拒否すると、無視されたり、不機嫌な態度を取られたりするため、断れない状態になっている。

一人だけ秘密を教えられない

表面上はグループの一員でも、連絡、予定、話題などから意図的に外されている。

SNSで反応を強要される

すぐに返信すること、写真を送ること、投稿に反応することなどを事実上強制されている。

物を勝手に使われる

文房具、制服、スマートフォンなどを無断で使用されても、本人が笑って受け流している。

断りにくい要求をされる

お金を支払う、物を買う、宿題を見せるなどの要求を、関係を保つために受け入れている。

失敗を撮影される

嫌がる様子や恥ずかしい場面を撮影され、グループ内やSNSで共有されている。

言い返すとさらに笑われる

抵抗しているように見えても、その反応自体が面白がられ、からかいが続いている。

これらの行為について、子どもが笑っていたとしても、本当に楽しんでいるとは限りません。場の空気を壊さないために笑うことや、嫌だと悟られないために笑ってごまかすこともあります。

子どもへの適切な聞き取り方

「いじめられているの」「本当に大丈夫なの」と何度も直接尋ねるだけでは、子どもが警戒し、話さなくなることがあります。

いじめという言葉を最初から使うのではなく、具体的な出来事や気持ちを一つずつ確認することが重要です。

  1. 誰と、どこで、何をしていたかを確認する
    「今日の休み時間は誰と過ごしたの」「どこで何をしていたの」など、事実から確認します。
  2. 実際に言われた言葉を確認する
    「どのような言葉を言われたの」「そのとき周りには誰がいたの」と具体的に尋ねます。
  3. そのときの気持ちを確認する
    「楽しかった」「嫌だった」「困った」など、子ども自身の気持ちを否定せずに聞きます。
  4. 断ることができたかを確認する
    「やめてと言えたか」「断ったらどうなると思ったか」を確認します。
  5. 繰り返されていないか確認する
    同じ行為がいつから、どの程度の頻度で行われているのかを整理します。
  6. どうしてほしいかを確認する
    子どもの希望を聞きながら、安全確保に必要な対応を検討します。
聞き取りの例

「大丈夫かどうかを答えなくてもいいよ。実際に何があったのか、一つずつ教えてほしい」と伝えることで、子どもが事実を話しやすくなる場合があります。

避けたい聞き方

  • 「あなたにも悪いところがあったのではないか」と責任を求める
  • 「気にしすぎ」「それくらい普通」と行為を軽く扱う
  • 「すぐ相手を呼び出す」と子どもの前で一方的に対応を決める
  • 何度も同じ説明をさせる
  • 他の生徒がいる場所で事情を聞く
  • 本人の同意なく、話した内容を不用意に周囲へ広める

学校に求められる対応

学校は、担任一人の判断だけで、「本人が大丈夫と言っているから問題はない」と処理すべきではありません。

いじめの疑いがある情報を把握した場合には、学校いじめ対策組織で情報を共有し、組織的に事実確認と対応を進めることが求められます。

1.客観的な事実を確認する

被害を受けた子どもの言葉だけでなく、関係する生徒、目撃した生徒、教職員などから個別に聞き取りを行い、日時、場所、行為の内容、頻度を整理します。

2.グループ内の力関係を確認する

友人グループ内の行為については、表面上は仲良く見えるため、いじめが見逃されやすい傾向があります。

誰が発言を決めているか、誰が断れない立場にあるか、特定の子どもだけが笑いの対象になっていないかなどを確認する必要があります。

3.被害を受けた子どもの安全を確保する

聞き取りを行う際には、相談したことによって報復や仲間外れが起きないよう、教室、休み時間、部活動、登下校、SNS上の状況を含めて見守る必要があります。

4.本人の希望だけで対応を止めない

被害を受けた子どもが「相手には言わないでほしい」と希望することがあります。その気持ちには十分配慮しなければなりません。

もっとも、本人が直接指導を望んでいないことを理由として、必要な安全確保や再発防止まで行わないことは適切ではありません。

指導の方法や時期を慎重に検討しながら、行為を止めるための実効的な対応を行う必要があります。

5.継続的に経過観察する

その場で謝罪が行われたことや、一定期間問題が確認されなかったことだけで、直ちにいじめが解消したと判断することはできません。

被害を受けた子どもが安心して学校生活を送れているか、同じ行為が再発していないか、新たな無視や排除が始まっていないかを継続的に確認する必要があります。

示唆的な指導だけでは不十分な場合があります

学年全体への講話や一般的な注意喚起は重要ですが、それだけでは、行為をした生徒が自分の行動を問題として認識しないことがあります。個別の事実確認と指導を組み合わせる必要があります。

保護者が確認したいポイント

子どもが「大丈夫」と答えていても、日常生活に変化が現れている場合には注意が必要です。

登校を嫌がる

特定の曜日、授業、部活動の日だけ、腹痛や頭痛を訴える場合もあります。

持ち物がなくなる

文房具や制服が頻繁になくなる、壊れる、汚れるなどの変化が見られます。

スマートフォンを気にする

通知に過敏になる、急に電源を切る、メッセージを見て表情が変わるなどの様子があります。

交友関係が変化する

以前まで一緒にいた友人の話をしなくなり、休日も外出しなくなることがあります。

金銭の減りが早い

理由を説明できない出費が増えた場合には、物を買わされている可能性も確認します。

睡眠や食欲が変化する

眠れない、朝起きられない、食欲がない、急に食べ過ぎるなどの変化が現れる場合があります。

これらの変化があるからといって、必ずいじめが発生しているとは限りません。しかし、子どもの負担を示す重要なサインとして、丁寧に確認する必要があります。

学校へ確認したい事項

  • 学校が把握している具体的な行為
  • 行為が始まった時期と頻度
  • 関係する生徒とグループ内の力関係
  • 学校いじめ対策組織で情報共有した日時
  • 被害を受けた子どもの安全確保の方法
  • 行為をした生徒への指導内容
  • 保護者への報告方法と頻度
  • 再発防止策と経過観察の期間

書面で学校に伝えることの重要性

学校へ相談する際には、電話や面談だけでなく、確認できている事実を整理した書面を提出する方法があります。

口頭だけの相談では、保護者が何を伝え、学校がどのような説明をしたのかについて、後から認識の相違が生じることがあります。

書面にすることで、相談した日時、具体的な行為、子どもの変化、学校に求める対応を明確に残すことができます。

書面に記載したい内容

  • 被害を受けている子どもの学年、組、氏名
  • 行為をしたと考えられる生徒
  • 行為があった日時と場所
  • 実際に言われた言葉やされた行為
  • 目撃者や相談した相手
  • 子どもが「大丈夫」と答えている場合の背景事情
  • 欠席、体調不良、成績低下などの変化
  • 学校に求める事実確認、安全確保、指導、報告
記録を残す際の注意

「いじめに違いない」という評価だけを書くのではなく、「いつ、どこで、誰から、何をされたか」という客観的な事実を中心に整理することが重要です。

「大丈夫」を問題終了の合図にしないことが重要です

子どもが「大丈夫」と答えたとしても、本当に苦痛を感じていないとは限りません。

特に友人グループ内のからかい、いじり、嫌がらせは、日常的な遊びや人間関係の一部に見えやすく、被害を受けた本人もいじめと認めないことがあります。

しかし、特定の子どもだけが繰り返し笑いの対象にされている、嫌な役割を押し付けられている、断ることができないなどの状況があれば、表面的な返答だけで判断してはいけません。

大切なのは、「いじめかどうか」という言葉の確認だけではなく、実際に何が行われ、子どもがどのような立場に置かれているのかを具体的に確認することです。

学校には、本人の訴えが明確でない場合であっても、小さな変化や危険信号を見逃さず、学校いじめ対策組織によって組織的に対応することが求められます。

よくある質問

本人がいじめではないと言えば、いじめにはなりませんか?

本人の言葉は重要ですが、それだけで判断することはできません。行為の内容、グループ内の立場、表情や生活上の変化などを確認し、実際には苦痛を感じていないかを丁寧に判断する必要があります。

友達同士のからかいも、いじめになりますか?

友達同士であっても、特定の子どもが心身の苦痛を感じる行為であれば、いじめに該当する可能性があります。普段仲が良いことだけで、いじめが否定されるものではありません。

本人も笑っていた場合はどうですか?

笑っていたことだけで、楽しんでいたとは判断できません。場を壊さないため、相手を刺激しないため、恥ずかしさを隠すために笑っている場合があります。

一回だけのからかいも、いじめになりますか?

法律上、行為が繰り返されていることは必須の条件ではありません。一回の行為でも、対象となった子どもが心身の苦痛を感じていれば、いじめとして認知される可能性があります。

子どもが相手への指導を望まない場合はどうしますか?

子どもの不安や希望には十分配慮する必要があります。ただし、安全確保や再発防止まで行わないことは適切ではありません。報復を防ぐ方法や指導の時期を慎重に検討し、実効的な対応を進める必要があります。

学校への相談は口頭だけでもよいですか?

口頭での相談も可能ですが、重要な事実や要望については書面でも提出することをおすすめします。書面にすることで、相談内容、学校への要望、その後の回答や対応経過を記録できます。

「大丈夫」という言葉だけで問題を終わらせないでください

いじめの疑いがある場合には、実際に起きた行為、日時、場所、関係する生徒、子どもの変化を整理し、学校へ具体的な対応を求めることが重要です。

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